
ChIP-Seq
目次
原理
ChIP-Seqの原理は、特定の蛋白質とDNAが結合している部位を、その蛋白質に対する抗体を用いることで標的化し、それを含むDNA部分を取り出すこと(ChIP)、そしてそのDNAのシーケンスを決定して結合部位を解析すること(Seq)にあります。
これにより、特定の蛋白質がゲノム上のどこに結合しているか割り出すことが可能になり、遺伝子の発現調節やエピジェネティクス研究における重要な手段となっています。
実験手順
ChIP-Seqの手順は大きく分けて以下のような流れで行われます。
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- 適切な細胞を用意し、DNAとタンパク質の結合をCross-link(架橋)により固定化します。通常、架橋剤としてはホルムアルデヒドが利用されます。
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- Sonication(超音波照射)などによりChromatinを適切な大きさに断片化します。
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- 対象とするタンパク質に対する抗体を用いてImmunoprecipitation(免疫沈降)を行い、結合しているDNAを取り出します。
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- Cross-linkを逆反応により解除し、純粋なDNAを回収します。
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- 回収したDNAをシーケンス(NGS)し、得られたデータを解析して対象タンパク質の結合部位を同定します。
データ解析の手順
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- リード(通常はFASTQ形式)のクオリティチェックを行います。Trimmomaticなどのツールを使います。
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- リファレンスゲノムにリードマッピングします。この時に使用されるツールはBWAやBowtieなどがあります。
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- ピークコールを行い、特定のタンパク質が結合している可能性の高い場所(ピーク)を探し出します。MACSやPeakSeqなどのツールを使います。
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- 得られたピークをアノテーションや可視化します。IGVやGenome Browserなどのツールを使います。
歴史と経緯
ChIP-Seqは、元々2007年にStanford大学のArend Sidow研究室により開発された手法であり、それ以前はChIP-chipと呼ばれるマイクロアレイを用いた方法が一般的でした。
しかし、ChIP-chipは解像度や感度に限りがあり、また特定の領域しか分析できないという欠点がありました。それに対し、ChIP-Seqは全ゲノムを規模で解析でき、より高解像度かつ高感度なデータを得られることから、現在では主要な手法となっています。
問題点と対応策
ChIP-Seqにもいくつかの問題点や課題があります。
- 抗体の特異性: ChIPの精度は用いる抗体の特異性に大きく依存します。これは抗体そのものの問題であり、実験者が適切な抗体を選択することが必須です。
- 解析の難易度: ChIP-Seqデータの解析はHigh-throughputなデータを扱うため、専門的なバイオインフォマティックススキルを必要とします。ですが、現状では多くの解析ツールが提供されており、それらを利用することで解析を行うことが可能です。
- 低いリプロデューシビリティ: ChIP-Seqは多くのステップを経由するため、個々の実験間で結果が一貫しない場合があります。これはプロトコルの標準化や改良により解決されます。
応用
ChIP-Seqは、転写因子やエピジェネティックな修飾の結合部位を解析するための主要な手法であり、これにより遺伝子の発現制御機構やエピジェネティックな変異が病気の発生にどのように関与するかを理解するための研究に広く利用されています。
さらに、最近ではHiChIPやChIA-PETといったChIP-Seqを基盤とした新たな手法が開発され、3Dゲノム構造の解析など、より高度な研究にも活用されています。

