
クライオ電子顕微鏡法
目次
原理
クライオ電子顕微鏡法では、特殊な冷却装置によって生体試料を液体窒素温度(約-196℃)まで急速冷却します。
この結果、試料内部の水分が非晶質の氷となり、生体構造がそのままの形で固定化されます。
そして、固定化された試料を透過型電子顕微鏡で観察し、画像データを収集します。
収集された画像から立体構造を再構築し、タンパク質等の立体構造を解析します。
手順
クライオ電子顕微鏡法の基本的な手順は以下のようになります。
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- サンプル調製:試料を透過型電子顕微鏡用のグリッドに塗布します。
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- 急速冷却:冷却装置を使用して試料を液体窒素温度まで急速冷却します。これにより試料内部の水分が非晶質氷になり、生体構造がそのままの形で固定化されます。
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- 観察:固定化された試料を透過型電子顕微鏡で観察し、画像データを収集します。
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- 解析:収集された画像から立体構造を再構築し、生体構造を解析します。
特徴
クライオ電子顕微鏡法には以下のような特徴があります。
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生体試料を非晶質氷の状態で固定化するため、生体構造を高解像度で観察することができます。
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X線結晶解析法とは違い、結晶化が不要なため、結晶化が困難な試料の観察に有用です。
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時間解像度が高いため、生体反応のダイナミクスを観察することが可能です。
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高分子量の試料や複合体の構造解析に有用です。
応用
クライオ電子顕微鏡法は、非晶質氷の状態で固定化された試料の3D構造を解析するため、生体構造の高解像度観察やタンパク質の立体構造解析などに主に利用されます。また、ウイルスや細胞等の大きな生体試料の観察、結晶化が困難な試料の観察、動的な過程の追跡などの応用があります。
例えば、新型コロナウイルスSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の構造解析にクライオ電子顕微鏡法が用いられました。これにより、スパイクタンパク質がヒト細胞の受容体に結合する様子を詳細に解析することができ、ワクチン開発における重要な情報を提供しました。
問題点
クライオ電子顕微鏡法には、高価な装置と高度な技術を必要とすることや、試料の結晶化が困難だが非晶質氷の状態で固定化に成功するまでも難しいサンプルには不向き、等の問題点が挙げられます。
歴史と経緯
クライオ電子顕微鏡法は1980年代に開発され、その後30年以上にわたって発展を続けてきました。これまでに得られた知識と技術を応用して、生体構造の高解像度観察やタンパク質の立体構造解析などに利用されています。
2017年には、クライオ電子顕微鏡法の開発とその応用に対して、ジャック・ドゥボシェット、ヨアヒム・フランク、リチャード・ヘンダーソンの3人がノーベル化学賞を受賞しました。これにより、クライオ電子顕微鏡法の重要性が世界的に認識されるようになりました。

